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リアルと誇張

「かぐやさまは告らせたい」というアニメをご存知だろうか?このアニメのエンディングにアニメのキャラクターが踊るシーンがある。

 このアニメーションは動きがかなりリアルに見えるし、凄まじく滑らかに動いているので、初めて動画を見た時はモーションキャプチャー(人の動きを録画して後から3DCGのキャラクターにその動きを適用させる)をしているのかと思っていたが、驚くべきことに実は全て人の手で描いているのだ。

 でも、よくよく現実と見比べてみると、このアニメには誇張表現が多い事、アニメーションの特性が非常に豊かに描かれている事が分かる。下の動画はたまたま見つけたリアルの女性が同じダンスをしている動画だ。みなさんもどこに誇張表現があるのかよく見比べてみてほしい。

 まず、1つの誇張表現は髪やスカートの揺れ方だ。アニメーションではリアルのもの以上に動きがゆっくり、尚且つ滑らかに描かれている。足踏みで揺れるスカートはあたかも波が揺れるようにも見える。また、女性がジャンプした時、ポージングした時はよりその波の揺れがまとまりをもって大きく描かれている。(逆に、現実では髪は四方八方にバサバサと揺れてしまう。)これによって、このアニメーションの動きにはリアル以上の動きの華やかさと滑らかさ、またキャラクター性が演出されている。

 

 2つ目は、アニメーションの女性の体重がかなり軽く描かれていることだ。始めの机から起き上がるモーションやジャンプの動きを注目してみると分かるが、現実では体を起こすのにも飛び跳ねるのにもかなりパワーが必要だ。だから、どうしても動作が鈍くなる。リアルでこのアニメと同じ動きを再現しようとするとかなりの筋力・体幹が必要だが、アニメでは本物の人間よりもずいぶん軽々と動けている。つまり、このアニメーションでの女性はリアルよりもかなり軽い質感で描かれているのだ。この軽さの誇張によってアニメーションならではのコミカルな動きが再現できている。

 

 トイストーリーなどのアニメーションは上に挙げたような誇張的な表現がかなり分かりやすく描かれているが、同時に現実ではないとすぐに見てわかる。(そもそもおもちゃが動くという時点でリアルは失われるか...)だが、このアニメーションでは誇張と現実世界でのリアルな動きがとてもいい塩梅で組み合わさっている。そのために、この人物のキャラクター性を、あたかも本当に人間が動いたかのような実体感を持って観客は感じられる。

 

 このようなリアルと誇張についてはあらゆる表現(映画や演劇、イラスト等)でも重要である。その作品のクオリティーを上げるためには、やはり普段から人やモノの特徴・性質をしっかり観察をすることが大切なんだと感じさせられる。