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制作課題なんか大嫌いだ!!

「アオイホノオ」や「かくかくしかじか」などの漫画を読んだことがあるだろうか?どちらも芸大での実体験を描いた作品で、主人公(その漫画家)が制作課題を作る中で苦しむ姿が描写される。

 私が通っている学校もデザイナーや映像制作系に携わりたいという生徒が多く、制作課題をクラスメイトの前で発表するといった授業がいくつかある。

 

 私は今年の夏に制作課題の出る授業のTA(先生のお手伝い)をやった。その課題は3DCGのアニメーション制作だった。授業に出る生徒たちのほとんどがCG制作に関わるのは初めてだ。言うまでもなく、現代の映像制作の現場では3DCGの需要は高く、「将来、3DCGアニメーションを仕事にしたい!」と意気込む生徒もいる。だから、その憧れやモチベーションのために、初めの方は生徒達はしっかりと授業に出席するし、提出物もちゃんと出してくれる。

 

 しかし、1ヶ月ほど経つと一部の生徒は授業に出てこなくなる。継続するのが難しいとか操作が慣れない。などの初歩的な問題はあるが、つまずいてしまう一番大きな理由が「自分が何を作りたいか分からない」と言う問題だと思う。例えば、「来週までに、何らかの物体をボールのように跳ねさせる面白いアニメーションを作ってきてください」と言う課題が出る。3DCGであれば自由自在になんでも作れる。空き缶を生き物みたいに跳ねさせることもできれば、重たい仏像のようなオブジェをスライムみたいに軽く跳ねさせることもできる。技術は十分にあるし、手間暇かければ出来ないことはない。でも、肝心の面白いアニメーションがどんなものかが想像できないのだ。授業では技術は教えられるが、面白い演出やアイディアは自分で考え学んでいかなければならない。そして、そこで考えることに疲れた生徒は「自分には3DCGはむいていないんだ。」と思い込んで止めてしまう。

最終制作課題 発表日

 最終制作課題は、授業で学んだ技術を総まとめして1分〜3分程度の短編アニメーションを出さなければならない。発表会が始まる前の生徒たちの様子は、案外けろっとしていたり、ペチャクチャと話し合ったりもしている。しかし、教室の空気感から内心ではかなり緊張しているのが伝わって来る。そして、作品発表が始まる。

 サークル活動等のために時間がかけられず、あまり良いとは言えない作品から、最初からネタに走ったような作品もあった。ひどく完成度の低い作品やネタ動画が流れた時には、クラスメイトたちは「歩き方おかしいやん!」「同じシーン繰り返してるだけや!」などと大げさにツッコミを入れつつ笑い飛ばしたりする。

 しかし、その一方で、目を見張るほどの完成度の高い作品を出す生徒もいる。その動画が流れ始めると、クラスメイト達は「うぉー!スゲェー!」「やべえ!」などとかなり興奮気味に声を上げる。が、その動画が流れるにつれて(大体1:00くらいのところから)急に黙りこくってしまう。

 

 黙ってしまうのも無理はない。その動画が長ければ長いほど、その作品と自分たちの作品との差を見せつけられるのだ。その時の空気にはなんとも言えない緊張感がある。その作品の発表が終わった次の生徒は、とても恥ずかしそうに申し訳なさそうに発表を始める。

 

上手く作品を作れなかった生徒の中ではかなりの葛藤があるだろう。

「笑われてしまうような恥ずかしい作品を作ってしまった。」

「同じ時間を与えられて同じ授業を受けたのに、自分とアイツではこんなに差があるのか。」

「自分は創作に向いてないのではないか?」

「じゃあ何で僕はこの学校に入ったのだろうか?」と

 

 その授業がきっかけになって色々と苦悩したりトラウマになったりする生徒もいるだろう。しかし、芸術系の学校に通う上でこれらの試練を免れることはできない。上に乗せた2つの漫画でもこういった心理描写が事細かく描かれていた。作品の発表が、創作を中心に生きている人へ与える影響はかなり大きい。でも、本当自分には創作が向いていな買ったのかをもう一度考え直してみて欲しい。なぜならその葛藤が将来何らかの糧になるかもしれないのだから。ここで、先ほどの漫画を紹介する。

オススメ漫画1「アオイホノオ」

 芸大生ホノオとエヴァンゲリオンの庵野監督の学生時代を中心に描かれた漫画。ホノオの庵野への嫉妬や、自分の自尊心と羞恥心がこれでもかと描かれている。泥臭くても、自分なりに突き進んでいく男はかっこいい。(一部試し読みできるそうです)


オススメ漫画2「かくかくしかじか」

 小さい頃から漫画家になるために奮闘する女子芸大生の話が中心に描かれている。「自分の絵なんか誰も買ってくれないんだろうなぁ」と思い絵を描くこと自体に疲れスランプに陥るが、その自分を変えてくれたのは恩師の存在だった。(同じく試し読みできます)


おまけ(私が授業を受ける側だった時の作品)

 上に書いたものは私がTAとして見た時の視点だが、もちろん、自分も同じ授業を生徒として受けていた。

下の作品は私がその時に出した最終課題の作品だ。キャラクターの挙動がおかしかったり、照明が途中で変わっていたりと、お粗末な部分はたくさん見受けられるが、これでも1ヶ月集中してテクスチャーを自分で作るところから計画して、最後は3日徹夜して作ったものだ。この時の達成感は未だに忘れられない。